敵基地攻撃能力と専守防衛2023/02/08

「敵基地攻撃能力」と「専守防衛」
                            2023年2月8日                               
                              
日本の政府が「敵基地攻撃能力」と大軍拡を言いだしました。
 先日の朝日新聞に航空自衛隊の元航空団指令 林 吉永さんのインタビューがありました。
当時彼は、ソ連の領空侵犯機に対してスクランブル出動をする部下に、
「引き金を引くな」
「相手に先に撃たれて脱出することは批判をされるし恥辱でもあるだろうが、その覚悟と忍耐によって日本の正義が保障されるのであればパイロットは真のヒーローたりうる」と指導していたそうです。これは自衛隊の方針ではなく、処分覚悟であったと言います。
ここでは「撃たれて脱出」と言っていますが、「撃たれて死ぬ」ことも当然意味していたはずです。
またこうも言っています。
「専守防衛の短所は自国民の損害や犠牲が避けられないことです。専守防衛とは、戦闘が自国領域内で行われることを意味するからであり、そもそも特別の覚悟を要する戦略なのです。他方、長所もあります。自衛のための戦いであることが理解されやすく、戦闘の正当性が担保されるため、国際的な指示や支援を得やすいことです。」
ウクライナ戦争については、こう語りました。
「ロシアによる侵略を自国の深くまで受けながらロシア本土を攻撃することに抑制的な今のウクライナは、まさに専守防衛的な戦いをしています。自らの闘いの正しさを示すことで国際社会の支援を得ようと努める現実的で重い決断が見えます。」
 
 米ソ冷戦当時の日本の軍事担当者の重い思考が伝わってきます。

政府は、「敵基地攻撃能力」「反撃能力」というのは、より長距離を飛ぶミサイルを装備したり、偵察能力を向上させたり、武器の備蓄を増やしたり、という、兵器や軍事的能力の問題であるかのように国民には説明しています。
その上で「専守防衛の方針は変わらない」とも言っています。しかし、ここに詭弁があります。
林、元指令が言うように「専守防衛」とは、相手より先に撃たないこと、他国領土で戦わないこと、を意味しているのです。それは相手より先に自分たちの側に犠牲や損害が出ることを覚悟した戦略なのです。先に撃たせないための「敵基地攻撃」は「専守防衛」とは異なるものです。
そもそも兵器は使い方によって盾にも鉾になるものです。現在の自衛隊の兵器でもやろうと思えば外国領土を攻撃できないわけではありません。「専守防衛」とは、その兵器の使い方について「先制攻撃しない」「自国領内に限る」という縛りをかけたものだったのです。
政府がわざわざ「敵基地攻撃能力を保有する」と言いだしたのは、この国の基本的防衛戦略を「専守防衛」から変更するということに他なりません。
軍事費の倍増や兵器の能力向上は、もちろん許すわけにはいきません。しかし同時にその裏に隠された基本的防衛戦略の変更を見逃さずに暴露しないといけません。

繰り返します。政府は、「専守防衛」をやめて、先制攻撃や国外での戦闘を可能にする方向に、戦争についてのこの国の基本的考え方を変えようとしているのです。

武力行使の正当性を確立するために、先に攻撃され自国に被害と犠牲がでることを覚悟のうえで、「専守防衛」という戦略を守ってきた林 元指令のような自衛隊幹部がいた時代は終わってしまったかも知れません。
実は、「集団的安全保障」にかじを切った時点で、すでに「専守防衛」は捨て去られ、この国の防衛戦略は変更されていた、ということなのでしょう。
今は、ウクライナ戦争と中国の拡大への恐怖心に付け込んで、その新しい戦略思想で国民の説得を試みているということでしょう。それも「やられる前にやってしまえ」という極めて低劣な、恐怖への反射を煽る形で。

我々は、今一度「専守防衛」という考え方の重要性を見直さなくてはならないのではないでしょうか。軍事力の不保持という理想は維持したままでも「専守防衛」の意義を語る勇気がいるのではないでしょうか。
戦争や安全保障の議論の中に「正当性」や「正義」が語られ、それを求める「国際世論」が大きな力として位置付けられる、そういう時代に私たちはようやくたどり着きかけていることを忘れてはいけません。その意味でウクライナの闘い方が、純軍事的には不合理ともいえるくらいロシア領内への攻撃を抑制している事にも思いを致すべきです。

もちろん、私たちの国が国際社会に向けて「専守防衛」の正当性を主張するためには、相手に攻撃させないだけの、国としての「正義」と「正当性」を、近隣国との過去の関係の反省、謝罪の上に確立しておくことが必要であることはいうまでもありません。

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